マルーンに乗って

お膝元で暮らす日常の思いつき

続『ガイズ&ドールズ』のツボ。ハリーとビッグ・ジュールがメッチャ恐い。

再演を観ているにも関わらず、今回星組版を観て一番驚いた役が壱城さん演ずるハリーと十輝さん演ずるビッグ・ジュールの二人でした。
正直ハリーに至っては、こんな恐い人いたっけ?と思うくらいでしたよ。
ビッグ・ジュールのクマも、あんな恐ろしいアイテムだとは当時は気づいてはいなかったという…。
本当、不思議です。
一体前回の公演、我ながらどこ見てたんでしょう。


まずハリー・ザ・ホース。

美貌のヤクザ…。
ええ、ギャンブラーではありません。
何故かアメリカ産関西系ヤクザにしか見えません。
しかも頭が空っぽというオプション付き。

美しいが故に恐ろしさ倍増というのも凄いけど、そこに思考や心理がないように見えるというのも凄いんです。
彼が仮に暴力を振るってたとして、そこに意味はありません。
そんな風にしか思えないんです。

頭が空っぽだから「ビッグ」と「クラップ」にしか反応というか興味がありません。
なのでそれ以外は排除すべきもの!そしてそれを阻むものも排除すべきもの!!と言わんばかり大暴れ。

これはわたしの勝手な感想なんですが、彼を見てると『キルビル』のGOGO夕張を思い出します。
制服なのにカウンターでお酒飲んで「ハハハ」と笑いながら隣のオッサンを刺す!みたいなね。
こんな行動してるのにメッチャ可愛い!なんてハチャメチャですよ。
ああいう恐さがあるんです。


そしてビッグ・ジュール。

クマの縫いぐるみを手放さない、いい年した大男。
シカゴから来た大物…らしい。
でもそう伝えてるのがハリーなので嘘ではないにしろ胡散臭い気も?

しかし問題は彼自身ではなく傍らに常に存在するクマなんですよ。
テディベアといえば乳幼児の傍らにいることが多いものです。
成長するにつれ一緒に遊んだり悩みを明かしたりと活躍してくれますが、いつかお別れの時がくるものです。
だって人間のお友達と遊んだりして交流を深め、やがて社会へと羽ばたきますもの。
それがあんなに立派な成人男性だというのに、まだクマが側にいる…。
一体どういうことなんでしょうか。
よくよく考えると、これってメチャクチャ恐くないですか?

大体あのクマ…、ビッグとお揃いみたいな服をいちいち着てるんです。
誰だよ、着替えさせてるの!
もしかしたら部下とかが存在していてボスとして命令しお世話させてる可能性もあるけれど、それに該当する人物は見当たらないです。
第一あんなに大切にしてるクマですもの、果たして他人に世話を任せるものでしょうか。
そうなるとですよ、あんなデカい図体して(これはビッグのことであって十輝さんではありませんよ)クマのお世話をしてるってことですか?
その絵面も物凄く恐い…。


そんな二人がペアで行動しています。

これも想像なんですが、恐らくビッグさんってあのクラップのやり方から各地の賭場から閉め出されているのではないでしょうか?
様々な所から出禁をくらい満足にクラップできないビッグと、クラップ大好き関西系ヤクザのハリーが出会いニューヨークをウロウロ。
こんなの何も起こらない訳がない!


案の定ネイサンは彼らに振り回されます。

大体賭け事で「勝つまで帰らない!」みたいな発言する人ってお馬鹿ですよ、賭けというのは親が儲かるものと決まっています。
ただクラップって胴元の取り分が少ないそうなので、ネイサンは良心的な人物だとも思いますけどね。
ディーラーもいないからイカサマもなさそうですし。
(だからこそ人気のあるゲームだそう)
スカイにも「テラ銭稼ぎか?」なんて言われているので、基本場所を提供することで儲けているんでしょうね。
そんな皆に慕われて、とっても優しい人なのにとんでもない二人に巻き込まれたものです。

ビッグから目のないダイスでクラップすることを求められるのですが、この時ネイサンって死を覚悟したんだろうなぁと思います。
余りにも言っていることが辻褄合いませんから。
わたしも客席で震えてましたもん、この二人まともじゃない!
それを許さなければ殺す感が凄い。


何が恐いってビッグが目のないダイスだけど、どの目が出たか分かるって言ったのはガチだってことですよ。
つまり転がして出た目が「1」「1」と「2」なら。

ビッグ「ウォー!負けだ!!」

ハリー「あんたの勝ちだぜ、ネイサン」

ネイサン「…マジか」

という信じられない展開もあったはず。
このことも恐かったです。

残念ながらビッグは勝ち続けるのでそんな展開は見られないのですが、その勝ち続ける様の恐ろしいこと!
だって誰にもダイスの目は見えない、でも勝った!って強行する大男。
その隣にはヤクザで頭空っぽな男が「そうだ、そうだ!」とうるさいという地獄のような状況。
この二人本気でやってるんです、クラップを!

凄いのはハリーにもダイスの目は見えないのに、ビッグが言うんだから間違いない!という空っぽの頭特有の判断力で乗りきってるところですよ。
迷いが全くない、疑問にも思っていません。
クラップも勝ってるんだし、大丈夫!ネイサンも受け入れてるしと本気です。


落ち着いて考えなくても目がないダイスなんですから、誰かが「そんなのおかしい!」と言えばいいんです。
正当な意見ですよ。
でも権力者たる王さまに耳がロバだと誰も言えなかったように、あの二人にイカサマだと勇気を持って言うことなど容易いことではないんでしょう。
だって一人はクマ所有、もう一人はクラップを邪魔されたら命をも奪いかねないんですもの。


…ここで死を意識したからこそネイサンは結婚するのではないかと思っています。
と言うのも下水道から出てきたあとアデレイドと歌うナンバーで、ネイサンったらなんだか全部彼女にゆだねてしまってる風ですもの。
お金だけでなく全てを失いそうになって、本当に手に入れたいのは何かって真剣に考えたんじゃないかな?なんて思いました。
あとそのタイミングでスカイと賭けたものが伝導所行きっていうのも大きかったでしょうね。
まさに神の思し召しだと伝導所で思っても不思議はありません。


それはさておき。

そんな目のないダイスでクラップする様を見て思いましたもん。
やっぱりクマなんて成人しても持ってる男性なんてまともじゃない!
あんな突飛な行動を納得をさせる為に持っていたアイテムなんでは?と思ったんですけど、どうでしょうか。
凄い演出ですよね。


ラストシーンには、すっかり足を洗っただろうハリーがいます。

彼、救世軍現れた時に遊園地でパレード見つけた子供の様にキラキラと喜ぶんですよ。
…ある意味それも恐いんですが。
空っぽの頭には救世軍の皆様から教えられた聖書の言葉が素直にスンスン入っていったんでしょうね。
だからこそ更正が何かも分からぬまま、その道まっしぐらに生きてるように見えます。
あの眼鏡も彼のイメージする真人間を演出するためなのでは?なんて思ちゃいますが、伝導所でも大きな声で言われるままに讃美歌を歌ってましたし根は良い子なんでしょう。
幸せにまともな人生歩んでね、と思わずにはいられません。


それにしても下水道でビッグが倒れた時、ハリーのクマへの応対っぷりが尋常ではないのですが。
まさか本体がクマ、なんてことはないんですよね?